社内備品とうなぎパイ

アニメとか漫画とかゲームとか映画とか

なんて贅沢なんだと思うわマジで

人は忘れる生き物だから、特に嫌な思い出は忘れるようにできているから、だから過去はいつだって輝いて見えるの、と言う人に会った。だから別に過去が素晴らしかったわけではないの、誰だっていつだって素晴らしいの、とその人は続けた。
私はそれを嘘ではないと思ったし、何ならその通りだと感銘を受けた。私は当時高校生で、自分が不幸のど真ん中にいると思っていて、そうとしか思えない自分に辟易している時期だった。これからはそういう風に思って生きようと決めた。

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それからの毎日は楽しかった。楽しすぎて怖くなるくらいだった。もうすでに輝いている現在、もっと日が経って今が過去になったとき、その輝きで私の眼は潰れてしまうんじゃないか。そう思えるくらいに、あの頃の私の毎日は輝いていた。怖いものなんて何もなかった。未来のことを考えるとき以外、怖いと思う瞬間なんてなかった。

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放課後の教室、遠くから運動部の掛け声が聞こえて、カーテンはふわふわと揺れていて、私は椅子に座ってまどろんで、ああ今私は青春の真っただ中にいるのだとなんとなく思った。この瞬間を輝かしいと懐かしむときがきっと来るのだろう。そう思うと少し泣けてきて、あくびをしたふりをして、どうしたのと聞いてきたクラスメイトに、少し眠くて、なんていう言い訳をした。

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私が一番美しい時に、それ以上醜くなる前に殺してくれる存在を、昔のライトノベルに出てきた死神みたいな存在を本気で望んでいた。死なないうちはまだ大丈夫、今が一番輝いているときではない、そうやって安心できる確かな約束が欲しかった。過去にも今にも未来にも失望したくなかったし後悔したくなかった。保証と希望と自信が足りない、心身の安寧が足りない、この幸せがずっと続くという事実と確証が欲しい、そのためなら死んでもいい。

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幸せであることが苦しいという思い出はずっと消えることがない。嫌な思い出ではないから、忘れることがずっとできない。過去はいつだって輝いて見えるの、誰だっていつだって素晴らしいから、過去も今も未来も全部素晴らしいの。なのになんで私は苦しいのだろう。今この瞬間を輝かしいと思う未来は来るんだろうか。私はずっともう何もかもわからないままなんだよ。