社内備品とうなぎパイ

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わかるわかればわかるとき

あなたの痛みを私が知ることはできないし同様に私の痛みをあなたが知ることもできない。私たちはわかりあおうとする生き物で、それと同時にわかりあえない生き物でもある。


「私の気持ちも考えてよ」「私の気持ちはどうなるの?」といった類の言葉を発したことがない。私の気持ちなんて誰も考えないし、考えていただけたとしても合っているわけがないし、結局私の気持ちなんて何がどうなろうがどうにもならないことを知っているからである。だからいかにもめんどくさい女のめんどくさい詰問みたいな上記の2つのセリフを言ったことはないし今後も言うことはないだろうし自分が言われる立場だったとしたらすぐ逃げる。カンカンカン! こいつ危ないぞー!! 逃げろー!! あとこういうこと言ってくるのってなにも女に限った話じゃねえから。男からもよく聞くフレーズだよね。「俺の気持ち考えてよ」。カンカンカン!!

人は自分の気持ちしかわからないから自分の気持ちしか考えませんよ。急に隣の友達が「お腹痛いんだけど」って申告してきたとするじゃないですか。ふーん、としか言いようがないよね。お腹痛いからなんだよって。お腹痛いからちょっとベンチに座らせてとか、お腹痛いからトイレ行ってくるとか、お腹痛いから帰るねとかならわかるわかる、ってなるんですけどただただ腹痛のみ申告してくる人いらっしゃるじゃないですかたまに。どうしろっつうんだよ。ブッダは神通力でアジャセ王の脳腫瘍を治したって話がありますけど私ブッダじゃねえから君の腹痛は治せない。ごめんな。君の腹痛が共有できれば一緒に治そうって気にもなるんだけどな。
痛みは共有できません。それと同じで気持ちなんてマジでわかんない。痛みも気持ちもクラウド化してていつでも誰でもアクセスできる共有データならよかったね。私は嫌だけど。

九井諒子の短編集「ひきだしにテラリウム」の中で、自分の鼻にぷすっと針状の何かを刺したのち、それを相手の鼻にぷすっと刺すと自分の考えていることが相手に余すところなく伝わる世界について描かれた話があるんですが、私はうわ、やだなーこの世界、と思いました。自分の考えていることが伝わってしまう世界なんて嫌すぎるでしょ。なんで嫌かは自分でもわからないけど、こういう自分でもよくわからない感情も相手に「わからない感情ねー、わかるわかる」みたいな感じでわかられてしまう世界なんて、気持ち悪いでしょ。何でかよくわかんないから説明もぼんやりとしていてごめんなさいね。

だからといってじゃあそもそもわかることなんかできないんだからわかろうとする努力やめようぜ、っていうのもおかしな話かなと思うんですね。基本的には私だって目の前にいる人のことをわかろうとしてるんですよ。まあわかってくれよわかるの当たり前だろって強要されるとカンカンカン! ってなるんですけど、それ以外は基本的にわかろうとしてる。ただそれは根気のいる作業だし、お互いの歩み寄りがないと成立しないこともあるから、あんまり一生懸命わかろうとはしたくないし、相手にわかれよって強要するのは酷だよなとも思っている。

あなたの痛みを私が知ることはできないし同様に私の痛みをあなたが知ることもできない。だからこそわかりたいと思うし、わかってほしいとも思う。わかるかわからないかは正直どうでもよくて、わかってほしいわかりたいという気持ちのほうをくみ取って欲しい。マジで。


「自分のことばっかりで私の気持ちなんて考えてないでしょ」とか言ってる人こそ自分のことしか考えてないんじゃないのかってことが要は言いたかったです。世の中は自分勝手な人しかいないって思いながら生きれば今より少し楽になれるのにな。神通力で脳腫瘍が治せるブッダだって自分勝手な理由で奥さんと息子置いて城を飛び出していってそのまま戻らなかったクチだから。